サガン鳥栖とロアッソ熊本の友情。五年前からの縁はさらに強固に
同じ県同士、隣り合う県同士、同じ地方同士…。〇〇ダービーと銘打たれ、絶対に負けたくない相手との大勝負。世界中のフットボールシーンで見られる光景です。九州でいうと、サガン鳥栖とアビスパ福岡の九州ダービーしかり、九州勢同士の対戦「バトルオブ九州」しかり。
が、時に何かをきっかけとし、対立とは正反対に友好的な関係が生まれることもあります。
ヨーロッパでは、シャルケ04とニュルンベルク(ともにドイツ)や、チェルシー(イングランド)とレンジャーズ(スコットランド)などが、友好関係にあると言われています。事の発端は諸説あるも、サポーター同士でお互いをリスペクトし合い、いざという時は支え合う。そんな関係が国や地域の垣根を越えて築かれているようです。
Jリーグも今年で24年目。Jクラブ間でも友好関係がいくつか芽生えつつあるようですが、九州においては、珍しいことに、サガン鳥栖とロアッソ熊本という隣県同士でのフレンドシップが生まれています。
6月8日、ロアッソは熊本地震による被災後、初めて九州でホームゲームを開催しました。その会場なったのが、鳥栖市のベストアメニティスタジアム。サガンのホーム、「ベアスタ」です。
ベアスタでの開催が決まった際には、ロアッソを大歓迎する鳥栖のサポーター声がSNS上に数多く見られました。その理由の一つは、何と言っても5年前のあの出来事。
この年J1昇格を決めたサガンに対し、ロアッソサポーターが送ったメッセージ。幾多の試練を乗り越え、ついにJ1昇格という目標を達成したサガンへのリスペクトとともに、「ロアッソが上がるまではJ2に落ちるなよ」という意味を込めたエールが送られました。
リーグ戦に復帰したロアッソはベアスタに来るまで4戦全敗。直近の試合でチームに復帰後初ゴールが生まれ、復調への期待をのぞかせていました。
ロアッソにとってベアスタは、これまで一度も負けたことがないスタジアム。相性のいいベアスタで、念願の勝ち点獲得か。そんな期待を背負い挑んだホームゲームでした。
いつもはサガンと対戦相手の両フラッグが飾られる鳥栖駅ですが、この日はロアッソのフラッグがダブルで掲げられていました!鳥栖駅を利用したロアッソサポーターは、早くも「トスピタリティ」に触れ、感激されたのではないでしょうか。
駅を出て、スタジアム方面へと渡る「虹の橋」には、いつもサガンののぼりがたてられていますが…。
この日はロアッソ仕様に様変わり!
会場内のスタジアムグルメは、お店の数こそ少ないけれど「うまスタグルメ」が食べられました!被災されたお店も多かったようなので、スタグルのお店も応援していきたいですね。
朗報
スタグルが熊本! pic.twitter.com/eZDBPOMqyw— roassonagamine (@rossokumamoto) 2016年6月8日
試合前には、佐賀県知事の山口祥義氏から気合いのこもったスピーチ!
同じ肥の国の、ロアッソサポーターの皆さん、ようこそいらっしゃいました。
我々は、忘れていません。
5年前のこのスタジアムで、J1に上がることが決まっていたサガン鳥栖に向かって、
「追いつき、追い越すまで、待っててね」と、皆さん方より横断幕が掲げられました。ロアッソの皆さん、サガン鳥栖とロアッソ熊本の”待ち合わせ場所”は、J1です!
皆さん、佐賀県はずっともっと同じ仲間である熊本県を支援し続けます。
これからも、気合を入れて、魂を見せて、九州は一つ。戦いましょう!
まさか知事の口からも、あのエピソードが語られるとは。ロアッソサポーターも意表をつかれたのではないでしょうか。
魂のこもったスピーチで、スタジアムが一つになった気がしました。
そして、スタンドの方に目をやると、鳥栖サポーターより熊本サポーターに向けたメッセージが。
なんかもう、言葉に言い表せないくらい胸が熱くなりました。
そしてその後、ロアッソの選手とサポーターは、この横断幕を掲げた鳥栖サポーターをはじめ、応援に来た九州のファンに対し、「火の国魂」をこれでもかというほど、見せつけたのです。
試合はなんと前半だけでロアッソが5ゴールを奪う、まさかの展開。
あれほどなかなか得点を奪えなかったチームが、試合開始23秒で先制。その8分後にはサガンから期限付き移籍中の清武功暉がフリーキックから直接ゴール。前半終了間際には、元サガン・黒木晃平が鮮やかなカウンター攻撃を沈めました。
ロアッソ熊本、ベアスタでリーグ戦復帰後初勝利。清武・黒木選手が凱旋ゴール。 ロアッソ熊本、ツエーゲン金沢、サガン鳥栖、そして熊本の応援にかけつけてくださった各サポーターの皆様、ベストアメニティスタジアムへご来場ありがとうございました pic.twitter.com/fkWbxa9rR0
— 佐賀県鳥栖市 (@tosu_city) 2016年6月8日
試合後、清武選手はサガンのマスコット・ウィントスくんとハグ。
ウィントスと2回ハグしてた清武。
1回目はくちばしが喉に入ったっぽかった。「うぐっ」ってなってた。
2回目は上手に避けてた(^ω^) pic.twitter.com/ri9fNSAaQP— もち (@mochi_no_yoh) 2016年6月8日
清武とウィントスの熱い抱擁 #roasso pic.twitter.com/1WTRaDLwDm
— ぽこすけ (@pokosuke) 2016年6月8日
ディフェンダーの黒木選手がゴールを決めたことも、ベアスタでの試合にかける思いが伝わってきました。
J2【ロアッソ熊本 5vs2 ツエーゲン金沢】
試合終了後、副キャプテンの黒木晃平選手インタビュー。
古巣であるサガン鳥栖のスタジアムでのゴールでもあり、様々な思いがこみ上げてきたのでしょう。
勝利、おめでとうございます!! pic.twitter.com/VTQHZghDOg— とも号 (@tomopanman5) 2016年6月8日
試合中も試合が終わってからも、この2選手に対する声援は一段と大きく、彼らを温かく迎え入れる鳥栖のホスピタリティをここでも実感しました。
ロアッソには、勝利の後、サポーターと選手が一緒に喜び合うセレモニーがあります。「カモンロッソ」というチャント(応援歌)で歌い踊られる勝利後のお約束。この日は、ゴール裏でロアッソを応援した鳥栖サポーターも一緒になってのカモンロッソでした。
ベアスタにいる間、何度も聞こえてきたのが、陸上トラックのないベアスタの「見やすさ」に驚く声です。ロアッソのホーム、うまスタは陸上競技場なので、どうしても観客席からピッチまでの距離が遠くなってしまいます。
試合後にベアスタのコンコースを歩いていると、ロアッソサポーターの親子の会話が耳に入ってきました。
父「このスタジアム良いね!」
子「見やすい!」
父「ねっ!すっごい見やすい!」
>サガン鳥栖のホーム「ベアスタ」は日本最上級のスタジアム・クオリティ
熊本でもいつか、立派な専用スタジアムで試合が見られる日が来るはず。そのためにも、ベアスタをもっともっと人が集まるスタジアムにして、サッカーが地域に及ぼす影響力の大きさを証明していかなければなりません。
ロアッソ熊本 次回のホームゲーム
●明治安田生命J2リーグ 第19節
「ロアッソ熊本 vs カマタマーレ讃岐」
日時:6月19日(日)18:00
会場:ベストアメニティスタジアム
この日は平日開催ということもあり、入場者数は2638人にとどまりました。次のベアスタ開催は6月19日(日)ですから、たくさんの人にロアッソを応援しに来てもらいたいですね。
今回の交流は、震災がきっかけになりましたが、サガン鳥栖とロアッソ熊本がお互いの絆をより一層深める機会となったのは間違いありません。こんなにもお互いをリスペクトしあい、支え合えるクラブがあるなんて。
この関係を切らすことなく、鳥栖と熊本の両クラブが協力し合えば、お互いの発展につなげられるのではないか。そんなことを感じた試合でした。