有田の窯元めぐりツアーに行ってみたら、有田焼をもっと好きになった
有田で開催された「職人現場検証」という窯元めぐりツアーに参加してきました。
有田焼のふるさと有田町は、土地の7割を森や山に覆われ、残り3割の平地に多くの窯元(陶磁器を作る施設)が集まる日本有数の磁器の産地。
地元有田の有志「有田陶交会」によって企画された窯元めぐりツアー「職人現場検証」は、多数の窯元があるにも関わらず、窯元間をつなぎ・めぐるツアーが開催されていない現状に対し、今後の開催に向けた試験実施として開催されたそうです。
今回、私たちをナビゲートしてくれたのは、明治創業の老舗 親和伯父山のイケメン陶工 岩永さん。
まず最初に、日本磁器の始まりの場所「泉山磁石場」を案内してくれました。
有田焼は、江戸時代初期の1616年に朝鮮からわたってきた「李参平(りさんぺい)」が、この泉山に良質な磁石(じせき)を発見したことで誕生したとのこと。
それから400年の間、人の手によって少しずつ削られてきた泉山磁石場は、現在でも少ないながら陶磁器の原料として使用されることもあるという、いまなお現役の磁石場。写真右の2つの洞穴からは江戸時代の道具が発掘されるなど、400年の歴史を物語る場所です。
現在は国の指定史跡とされています。
当日は会場の隣で、アリタマルシェが開催され多くの客で賑わっていました。
有田焼の起源を物語る「泉山磁石場」からバスで移動した先は、老舗窯元「親和伯父山(しんわおじやま)」さん。工場内に入ると、有田焼ができるまでの流れをもとに、各工程のポイントを紹介していただきます。
様々な工程に、専門の職人が携わり製品が生まれます。
筆で直接色を入れているように見えますが、実際には筆先の水滴(のようなもの)をコントロールして色がつけられています。塗料を見ると緑っぽく見えますが、これが窯で焼かれ有田焼の美しい青に変化するそう。
器にひとつづつ色がつけられていく工程から、器ひとつに掛けられた手間や技術を知り、普段の有田焼の価格が安すぎるように感じることも。
職人さんからは「じつは◯色は原価が高いんです」なんて裏話も。
窯で焼かれて色が変化すること、サイズが少し小さくなることなどを踏まえてデザインや設計を行い、その日の天候や湿度等によっても細かく調整するなんて気の遠くなるような話も。
巨大な窯の下から見えるオレンジの炎。
親和伯父山さんでは、このほかにも世界的ブランドの定番アイテムも手がけられており、世界レベルでの信頼の高さを感じさせます。
次に訪れたのは「吉右ヱ門窯(きちえもんかま)」さん。
1673年創業という老舗では、焼き物の「型作り」を見学します。
創作料理等にも人気という、めずらしい形状の陶磁器。
これらの製作には「型」と呼ばれる道具が必要とのこと。ろくろを回すような陶磁器づくりと、型を使用した陶磁器。オーダーの内容によって、適切な方法が選ばれるそう。
上の写真右側の、空洞を持つ特殊な形状の型がこちら。
型はいくつかのパーツに別れ、デザインが再現できるようになっている。
型自体を制作する工程も再現。
この白い液体の原料は、学校のグラウンドに引く白線に近いとのこと。
意外と数十分程度で固まります。
親和伯父山さんなど、大きな窯元には型職人さんが在籍するケースもあるようですが、多くの窯元は「型屋」さんに型作りをオーダーするそう。しかしながら、この型をつくれる職人さんが減っているのも課題だそうです。
次に向かったのは「福珠窯」さん。生地成型からの一貫生産という強みが特徴で、のびやかな作風が特徴とのこと。
ここでは「排泥鋳込」という製法を実演していただきます。
泥状にした生地を石膏型に流し込み、しばらく置いて泥を流す技法。
生地の水分を石膏が吸い、石膏と生地の接地側から生地が少しづつ固まっていきます。
これも当日の天候や湿度などで、乾燥時間を細かく調整する技術が必要とのこと。
この時間によって器の厚みが違ってくるため、職人の経験と勘が必要になります。
乾燥後に石膏型を外すと、こんな感じの商品の原型が姿を現します。ここから手作業で(!)バリをとったり、平行をとったりするそう。
作業場の隣では、自社製品の展示・販売スペースもあり、感動の余韻をおみやげにすることも。
最後に訪れたのは、彫刻ものを得意とする「北川美宣窯」さん。
ミクロスと呼ばれる、ミニチュア人形の有田焼は海外でも人気。ここでは原型作りと型による整形を見学。
専用の道具で、精巧な原型を作られています。
実演されたのはサメの原型でした。ジンベエザメかな!?
複数の型からつくられるミニチュア人形。
これも手作業でバリ取りと調整が施されます。
2016年の干支「猿」のミニチュアも。きっと日本中の神社等に並ぶのでしょう。
この他にもネコやフクロウをモチーフにしたデザインや、誰もが知っているキャラクターをモチーフにした製品など、いろんな可能性を感じさせる窯元さんでした。
手作りのユニフォームやレジュメ、手描きの説明パネルなど愛ある演出が満載の窯元めぐりツアー「職人現場検証」。
ひとことで窯元といっても、それぞれ得意分野が違ったりして、ほどよく住み分けられてるのかな〜なんて想像しました。
有田の窯元めぐりツアーを通じて感じたのは、職人さん達の仕事へのこだわりと愛。
自分の職場や製品の事をとても楽しそうに話す姿は、なによりその想いを伝えることとなりました。
また、この企画自体が地元の有志から自発的に生まれたという話も、伝統工芸の街に住む方たちの生き方を象徴するよう。職人でありながら、目の前の製品だけでなく街を盛り上げようとする姿にも感動しました。
というわけで、有田焼をまたひとつ好きになっちゃうよね〜。
休憩で訪れたのは福珠窯さんの隣に併設された、1日5組の完全予約制レストラン「かぜのまえ」さん。
地元佐賀の食材と福珠窯の器を使ったランチを堪能しました。
窓からは紅葉の気配が。
お庭のこまいぬ。これも有田焼でしょうか?
かぜのまえ
住所:佐賀県西松浦郡有田町中樽2-30-16
電話:0955-29-8108
時間:11時30分 ~ 14時
定休:月・木曜日(祝祭日は営業)
※完全予約制